もしも私だったとしたら

もしも私だったとしたら

                  美好ゆか

もしも私だったとしたら
彼の言葉を文字通り受け取ったことだろう
長くもなく短くもない時間を彼と過ごした
あの年になれば不快や憤りを隠すこともできるようになるはずなのに
彼はただ素直だった
私と同じ訛りを持ち、私とは違った不器用さを持つ男だった
友人でも家族でもない
肩を並べて歩いたことなど数えるばかりでも
自分だけは裏切らないという大袈裟な言葉が似合う男だった
そう言った時、彼はわずかに首を傾げた
それは自信のなさではなく、思いがけず注目を集めてしまった時の彼の癖だった

ゴルゴタに春が来て
カタバミがそこかしこに咲く
薄れゆく視界の端にわずかに差し込む光
もしももう一度光の下に帰れるのなら
わたしは彼になんと言えばいいのだろう
彼はわたしを否み、身勝手な涙を流していた

ゴルゴタに朝が来て
覆い隠された太陽が世界を照らした

もしも私だったとしたら
憔悴しきった彼をこれ以上責めることはしなかっただろう
彼は私を拒み、身勝手な涙を流していた
「あなたは私を愛するか」そう静かに問いかけ
「私の羊を飼いなさい」そう励ますだろう
あの身勝手な涙を永遠に悔やませるために


悔い改めの機会など永遠に与えない





もしも私だったとしたら
私は彼になんと言えば良かったのだろう
私を拒み終えた彼に

責めようと赦そうと永遠の苦しみだけが私を待っていた
もしももう一度光の下に帰れるとしたら
もしもあのひとが私だったとしたら
あのひとは彼になんと言うのだろう

ゴルゴタに夜が来て
月影がからっぽの空間を照らした