はじめに③いのちと聖
私は言った。
「ああ、私は滅んでしまう。この私は唇の汚れたもので、唇の汚れた民の間に住んでいる。しかも、万軍の主である王をこの目で見たのだから。」
すると、私のもとにセラフィムのひとりが飛んで来た。その手には、祭壇の上から火ばさみで取った、燃えさかる炭があった。
彼は、私の口にそれを触れさせていった。
「見よ。これがあなたの唇に降れたので、あなたの咎は取り除かれ、あなたの罪も赦された。」
イザヤ書6章5-7節
「聖」は神さまのご性質を表す言葉です。だから「聖」の定義は聖書が神さまをどのように描いているかということから理解できます。
冒頭のイザヤ書では、聖なる神さまを見たことで「滅んでしまう」と恐れるイザヤが描かれています。「聖」は私たち人間を滅ぼすほどの力強いものであることがわかります。一方で、神さまに(ここでは神の使いであるセラフィムですが)触れられると滅びることなく生きることができる。死ぬべきものを生かすことができるというのも「聖」の性質です。
「聖」の性質は、律法を見ていくとわかります。
…あなたがたは聖なる者でなければならない。あなたがたの神、主であるわたしが聖だからである。
レビ記19章2節
律法は神さまの「聖」を教え、私たちに「聖なる生活」とは何かを教えます。
この律法を見てみると血に関する記述が多いことがわかります。「すべての肉のいのちは、その血がいのちそのものである」(レビ記17:14)とあるように、古代の人々は血をいのちの源と考えました。そして血に触れることを神さまの領域に不用意に踏み込むことと考えたのです。
血を食することの禁止は、現代の私たちから見れば不可解な戒めですが、いのちの主権者である神さまへの畏敬を生活の中であらわす行為だったわけです。
同じ理由で、月経や出産を含む出血を特別なものとして扱っています。それは女性蔑視や障害者差別ではなく、弱いいのちへの配慮でした。(ただし、配慮と差別は紙一重だと思います)
律法はイスラエル人に聖なる者としてのアイデンティティを与えるものです。血を流し、いのちが危険にさらされている状態は神さまの「聖」のご性質に反する状態です。だから、その状態に不用意に触れること、その状態にある人が通常の生活を送ることを戒めたのです。
新約聖書を見てみても、神さまのご性質と「いのち」が密接な関係を持つことがわかります。
病の癒し、パンを与える奇跡といった「しるし」は「いのち」に関わるものです。もっと生々しく「肉」に関わるという言い方もできます。聖書で語る「いのち」は単に肉体のいのちだけを指すものではなく、単に霊的ないのちだけを指すのでもありません。
私たちが物心ともに満たされてイキイキと生きていくということに神さまは関心を持っておられる。だから、私たちの「肉」の領域に神さまは介入されるのです。
そして神さまが「いのち」に関心を持っておられることがわかる究極の出来事が復活です。神さまの「聖」は「いのち」の対極にある「死」もひっくり返すことができるのです。
イザヤに触れ、「いのち」を与えたように、神さまの「聖」は触れたものにそのご性質を分け与えるものでした。神さまと交わりを持ち、神さまに触れられた私たちは「聖」なる者になります。そして、「聖」なる者として出て行くように促されています。
わたしがこの世のものでないように、彼らもこの世のものではありません。真理によって彼らを聖別してください。あなたのみことばは真理です。あなたがわたしを世に遣わされたように、わたしも彼らを世に遣わしました。
ヨハネの福音書17章16-18節
神さま➝私たち➝世界、と「聖」が広がっていく。「いのち」が広がっていく。それが神さまのあり得ないほどのスケールの計画です。
私たちは聖なる者となるように命じられています。聖なる者になるとは、浮世離れした非人間的な存在になることではありません。神さまの「いのち」を身に帯びて、「いのち」を喜び「いのち」を敬い、自分と関わるすべてのひとが豊かな「いのち」を生きていけるような存在になることです。
「いのち」は神さまの「聖」のご性質と関係するものであり、私の信仰の立場にとって重要な要素です。「いのち」を阻害するものとは徹底的に闘っていくつもりだし、「いのち」を重要視しない立場(キリスト教の中には少なからずそういう立場があると私は思っています)の人とは一緒に働けません。でも、「いのち」を大切なものと考える人となら、どんなに神学的に違いがあっても、性格が正反対でも、私は一緒に働けると思っています。
「はじめに」の「いのち」シリーズはあと二回の予定です。
今日から新学期の授業が始まったので少しドタバタしていますが、多分明日も更新します。読んでいただけること、感謝です。ありがとうございます。
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